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「映画 子宮に沈める」に込められたメッセージ

くまさんくまさん

皆さんは「子宮に沈める」という映画をご存知でしょうか。
この作品は、2010年に発生した大阪2児餓死事件を基に作られた2013年公開の緒方貴臣監督による社会派映画です。

ショッキングな内容を扱っているのにも関わらず、ドラマのような演出もほとんどなしで、定点カメラのようなアングルからただ淡々と家族の様子を映し出したこの作品は、公開当時社会に大きな影響を与えました。

大阪2児餓死事件とは当時24歳の母親が、3歳の長女と1歳の長男を50日間に渡り部屋に閉じ込め、二人を餓死させたという大変痛ましい事件です。
そのとき母親はホストの男のところに身を寄せており、悠々自適に生活する姿をたびたびSNSにアップしていたといいます。

検視の結果、長女は辛子やマヨネーズ、そうめんのだし汁や氷などを食べ、弟である長男にも分け与えていたことが分かりました。
そして最終的には、互いの尿を飲み便を食べ、長女は食中毒を起こし死亡。
長男も10時間後に長女のあとを追うように亡くなっています。

映画の中では、子どもたちが衰弱していく様子や幼い子どもが部屋の中に閉じ込められたらどうなるのかということがリアルに描かれています。
なかでも、虫の湧いた長男を母親が洗濯機に入れて回すシーンは悲惨です。
思わず言葉を失ってしまいました。

しかし残念なことに、先日また同じような事件が起きてしまいました。
東京都大田区で起きた3歳児餓死事件です。
母親は大阪の事件と同じく24歳で、知人男性の元に身を寄せ1週間以上も子どもを家に置き去りにしていたそうです。

なぜこのような事件が繰り返されるのか、そこには様々な要因があるように思います。

一番多いのが、母親自身が親から幼少期に何らかの虐待、またはネグレクトを受けて育ったということ。いわゆる負の連鎖というパターンです。
そして、母親を助けてくれる人が誰もいなかった、シングルマザーゆえの孤独が生んだ事件だ、という声なども聞かれます。

この事件を発端に、世の中では育児放棄をする親に対する批判の声が殺到し、「死ね」「クソ」などの暴言を浴びせる、いき過ぎた行為にまで発展しています。

どんな要因があろうとも、あってはならないこのような事件ですが、この作品を通して緒方監督が伝えたかったものとは何だったのでしょうか。

親を叩くことで、児童虐待は減るのでしょうか?

SNSが普及して、容易に人を叩くことができるようになり、親を叩く人が増えたはずなのに、実際に児童虐待は減っていません。
児童虐待は減少することもなく、逆に増加する傾向にあります。
つまり、親を叩いても児童虐待はなくならないのです。

数年前に「子宮に沈める」という作品を観たときに、私はこの映画を通して緒方監督に想像力を与えてもらった気がしました。
それは、私以外の人にとってもきっと同じだったと思います。

この作品は、児童虐待のありのままを観る側にそのまま突きつけます。
センセーショナルな見出しもなければ、観客の興味を引くような演出も一切ありません。
それゆえに、この映画を観るのはとても勇気のいることだと思います。

ですが、事実と向き合うこと、事実を知ることこそが、児童虐待死を防止するための第一歩に繋がるのではないかと思います。

児童虐待をしている当人や、そのような人が周りにいる人に対して大変意義のある映画ですので、気になる方はぜひ一度観てみてください。

そして、親叩きをする前に冷静になって考えましょう。

過去の裁判で、加害者はネットリンチによって「十分な社会的制裁を受けた」として情状酌量の余地ありとされてしまった判例が存在します。

本来裁かれるべき人間が自分の犯した罪に相当する裁きを受けなくてもよいということになりました。

これでは本末転倒になってしまうのではないでしょうか。

罪の裁きは司法に任せ、私たちは私たちにできることをしましょう。
児童虐待死がない世界、母親が児童虐待に手を染めずに済む世界に少しでも近づけることを願って、個人個人が行動してほしいと思います。

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くまさん

くまさん

東京都

東京在住のワーキングマザー。発達障がい(ADHD)のある中学生と、定型発達の保育園児、乳幼児の3姉妹を育てています。これまでに経験した、出産・結婚・離婚・再婚・ステップファミリーなど、さまざまな体験をもとに、記事を執筆していきます。